日本酒は、良い水、良い酵母、良い酒米から作られます。
地元の蔵元から美山錦の栽培を依頼された篤農家のKさんに誘われて、U酒造協会主催による利き酒会に出席しました。利き酒は、6点(吟醸酒・純米酒・本醸造・原酒・辛口酒・甘口酒)を自分のうまいと思う順番に番号をつけ、2回試飲し順番が合っているかを競うものでした。おおよその美味しさの傾向は分かったような気がしましたが、点数は22点で、参加者約30人の内の上位だったでしょうか。
お酒の分類は、昔は特級酒、1級酒、2級酒と分かりやすかったのですが、現在、吟醸酒、純米酒、本醸造酒に分けられています。純米酒は精米歩合が70%以下(玄米の30%をけずった米を使う、一般の食用米は精米歩合が約90%です)で醸造アルコールの添加がない米だけの酒です。吟醸酒と本醸造酒は、10%以下の醸造アルコールが添加され、吟醸酒は精米歩合が60%以下、本醸造酒は70%以下となっています。
吟醸酒は、低温でゆっくり発酵させて果実や花のような香りが特徴的で、一般的に高級酒です。純米酒はこくがあり値段はやや高め、本醸造が最も一般的な酒です。個人的な趣向では、醸造アルコールが添加されている酒の方が、口に含んだときの切れが良く、美味しいと思っています。最近は、雑菌を殺す等の加熱処理をしない生酒が流行で、大変飲みやすく、果実のような香りが好評ですが、個人的には逆に麹臭い香りが気になって好きではありません。
酒の辛口と甘口は、酒の糖分が多ければ甘く、少なければ辛く、さらに、酸やアルコールの度数によって影響されます。昔から、「太平の世には辛口、乱世には甘口の酒がはやる」と言われてきましたが、最近は、生酒に代表される飲みやすく、淡麗な甘口傾向でしょうか。
安い酒は、デンプンでさえあれば屑米からも作ることができますが、美味しくありません。良い酒は、良い水、良い酵母、良い酒米から作られます。現在、全国の主要酒米は、山田錦、五百万石、美山錦の3品種といわれています。山田錦は大正12年に育成され酒米の神様的存在で、品評会に出す酒は、ほとんどが山田錦から作られています。その謎にせまってみましたが、精米に粘りがあり40%までけずっても米が割れないということの他の、科学的な知見は分かりませんでした。
美山錦は、昭和47年に「たかね錦」という品種の種子100グラムにガンマー線を照射し、突然変異により育成された品種です。幾つかの品種育成に関わりましたが、この品種との関わりが一番思い出に残っています。
農水省放射線育種場に依頼し照射した100グラムの種子を苗代に播き、枯死せずに生育した850株を収穫しました。その株の1穂から1粒づつ採取し、翌年2562株の稲を育てました。秋になってその株を一株づつひもで縛り、収穫、乾燥させたのち、室内で穂の先だけちぎり玄米として観察し、大粒で、心白の良く出ている株を30個体選びました。さらに、水田で詳細な観察をしたり、収量や各種特性を調べ、昭和50年に「信放酒1号(信州の放射線育種による酒米の1番目)」の名前を付け、昭和53年に奨励品種として美山錦の名前となり、現在に至っています。心白とは、粒の中央部分が疎になっていて、酒を作るとき麹菌の進入しやすい酒米の特性です。さらに、タンパク質が低いことも味に影響します。酒米は、大粒、多い心白、低タンパク質の3つが主要特性です。
品種育成は、大変根気のいる仕事で昔は、10年に1品種が出れば良いと言われていましたが、最近は、5年に1品種がでないと責任が問われる時代となっています。苦労がたくさんありましたが、約30年という時代がたっても育成に関わった品種が栽培されていることは、望外の喜びです。
人の世にたのしみ多し然れども 酒なしにしてなにのたのしみ 若山牧水
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